管理組合が機能不全になる日:マンション理事のなり手不足が招く末路
1. はじめに:マンションって誰が管理しているの?
マンションは、ひとつの建物にたくさんの人が住んでいます。みんなで使うエレベーターやゴミ置き場、廊下や屋上などを、誰が掃除したり修理したりするか、考えたことがありますか?
実は、マンションでは「管理組合(かんりくみあい)」という仕組みがあり、住んでいる人たちが自分たちでルールを作り、建物の管理をしています。
その中心で動くのが「理事(りじ)」という住民代表の人たちです。
2. 「理事」ってどんな人?どんなことをするの?
理事は、学校でいえば「クラス委員」や「生徒会」に近い存在です。
マンション全体のことを考え、会議で話し合い、必要な修理や予算の使い方を決めたりします。
たとえば、屋上から雨漏りがしたときに修理を決めたり、エレベーターの点検日を管理会社と調整したり、ゴミ置き場が荒れていればルールを見直す…そんな大切な役割を担っています。
3. 理事の義務・責任・権利・メリットとは?
- 義務:マンション全体のために行動し、必要な管理を進めること。
- 責任:判断ミスなどでトラブルが起きた場合には、住民に説明を求められることもあります。
- 権利:マンションの管理に関する情報を知り、意思決定に参加できる権利があります。
- メリット:建物について詳しくなれること、自分の資産(部屋)の価値を守れること、住みやすい環境づくりに参加できることなどがあります。
実際に理事を経験した人の中には、「最初は面倒だと思っていたけど、住民とのつながりができて、暮らしやすくなった」と感じる人もいます。
4. 理事が足りないのはなぜ?
最近では、理事になってくれる人が減ってきています。その理由は…
- 共働きや高齢化で、時間に余裕がない
- 責任を負うのが怖い、面倒だと思ってしまう
- マンションに住んでおらず、投資目的で持っているだけの人が多い
あるマンションでは、理事が不足しすぎて「全戸にお願いの手紙を3回出したけど、誰も立候補しなかった」というケースもあります。
5. 理事がいなくなると何が起きるの?
理事がいないと、マンションの管理が進まなくなります。たとえば…
- エレベーターの修理や清掃の契約ができず、壊れたまま放置
- 建物の外壁がヒビ割れても、修理を決める会議が開けない
- 住民同士のトラブルを解決する人がいない
- 修繕積立金の使い方が決められず、将来の工事ができなくなる
放っておくと、マンションの見た目が悪くなり、住み心地も悪くなり、売ろうとしても買ってくれる人がいなくなってしまいます。
6. 実際に起きたトラブルの例
東京都新宿区のマンション:
築30年を超える中規模マンションでは、理事のなり手がゼロになり、エレベーターの点検契約が切れたまま。半年間点検が行われず、住民の間で「本当に動いてるのか?」と不安の声が上がりました。
大阪府東大阪市の高齢化マンション:
住民の8割以上が高齢者で、理事会が開かれなくなって3年。外壁の劣化や雨漏りが進行し、危険な状態に。市が調査に入り、緊急対策として一時的に管理を引き受けるケースになりました。
7. 行政によるガイドラインやサポート
理事がいない、会議が開けない、管理ができない…。そんなマンションが増えてきたため、国や自治体も対策を始めています。
- 東京都:「マンション管理条例」により、管理状況の届け出を義務づけ。管理が不十分な場合、アドバイスや指導を行います。
- 大阪府:「マンション管理適正化方針」により、希望する管理組合には専門家(マンション管理士など)を派遣。改善計画の作成も支援。
- 国土交通省:「マンション管理計画認定制度」を導入。管理状況が良好だと認定され、売買時に安心材料になります。
これらの制度を使うことで、理事がいなくても第三者の専門家の力を借りて、マンションの管理を立て直すことができます。
8. 理事のなり手を増やすための工夫
- 報酬制度:理事を引き受けてくれた人に1万円~3万円の謝礼を出すマンションも増えています。
- 外部理事の導入:マンション管理士や不動産会社のOBに理事をお願いする仕組みです。専門性があり、安心して任せられます。
- オンライン会議:Zoomなどで会議をすれば、仕事や育児で忙しい人でも参加しやすくなります。
実際にこれらの制度を取り入れたマンションでは、「理事のなり手が増えた」「若い人が参加しやすくなった」という声が聞かれています。
9. 自主管理という選択肢もある
管理会社に頼らず、住民だけで管理を行う「自主管理(じしゅかんり)」というスタイルもあります。
- 良い点:管理費が安くなる、住民同士のつながりが深まる
- 課題:専門的な知識や手続きが必要、人間関係のトラブルが起きやすい
たとえば、東京都杉並区の10世帯の小規模マンションでは、全員が順番に理事を担当し、ゴミ置き場の掃除から会計まで分担して成功しています。
一方で、理事の知識不足から建物保険の更新を忘れ、トラブルになった事例もあります。
10. おわりに:これは将来の自分にも関係する話
今はまだマンションに住んでいない人も、将来一人暮らしをしたり、結婚して家を買ったりすることがあるかもしれません。そのとき、自分が住む建物がしっかり管理されているかどうかで、安心感も資産価値も大きく変わります。
マンションの理事や管理組合のことを知っておくことは、「住む場所を守る力」を持つことでもあります。「誰かがやってくれる」と思わず、「みんなで守る」という意識を持つことが、これからのマンション生活にはとても大切です。
この記事でわかること(まとめ)
- マンションには管理組合というしくみがある
- 理事がいなくなると、建物の管理ができなくなる
- 実際にトラブルが起きた事例がある
- 国や自治体も支援制度を用意している
- 自主管理という選択肢もあるが、注意点もある
- 将来の自分の住まいのためにも、管理の大切さを知っておこう